今年の7月下旬~8月上旬にかけて、シンガポールで世界マスターズが開催されました。
この世界マスターズのOWSに参加された方3名から、大会参戦レポートが届きましたので掲載します。
みんなどういう思いで海外レースに参加してきたのか、とても臨場感のあるレポートですので、ぜひお読みください!
【レポート①】篠田奈々さんのレポート
今回の世界マスターズOWSへの参戦は、私にとっては、2年前の福岡大会参戦に続き、2度目のチャレンジでした。前回は、自分はOWS、主人は競泳で参戦しましたが、私の楽しかった福岡OWSの話をするうちに、主人も海に行きたくなったということから2人でOWSに参戦することにしました。今回は、2人で、そして、オーシャン・ナビのメンバーとして、シンガポールの世界マスターズOWSに参戦できて、泳ぎ切れて良かったという満足感で一杯です。
今回のエントリーは、オーシャンナビ・マスターズ内の情報共有で、世界マスターズが2025年7~8月にシンガポールで開催されることを知りました。コーチ陣からの参加のお誘いと共に、いろいろな情報をもらい、打ち合わせもしてもらい、とてもスムーズにエントリーから出国前の準備をすることができました。オーシャン・ナビからは櫻井団長が率いるもと、藤森コーチ、女性陣4名、男性陣3名(櫻井コーチ含む)で参戦しました。

練習や作戦会議も含め、万全の準備で当日を迎えましたが、それでも、どきどき、ばたばたしながらのコロナ以来ぶりの海外旅行への出発。空港についたあたりから、他の参加者の、「シンガポール入国」連絡などが届き始め、いよいよだと思いながら、私たちも出国です。私たちも出国連絡を発信すると、グループメンバーからのいいねマークがすぐについて、とても励まされました。ホテルにつくと、グループのみんなで顔合わせ。コーチたちとも、普段の練習仲間たちとも、久々の仲間とも、みんな無事到着・集合して一安心です。
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翌日は、午前中はフリーで、正午に待ち合わせて、選手登録にみんなで出かける予定でした。しかし、朝起きると、世界マスターズのアプリで、その日に予定されていた試泳の水質不良による中止連絡がはいっていました。少し不安な気持ちになりましたが、すぐに櫻井コーチから、出発時間の予定変更対応中であるとの連絡が入り、ここはお任せしておこうという安心感に包まれました。そこで、もうこれは、空いた時間に、シンガポールに来たらまず行きたいと思っていたケーキ屋さんに行っちゃおうということにしました。昔、仕事でシンガポール拠点との窓口業務をしていた頃、いつもおみやげでおいしいクッキーをもらっていたお店がブンガワン・ソロでした。クッキー缶もとても美しくて、ザ・シンガポールの象徴のように思っていました。そして、いつも優しかったシンガポール在住の同僚が、「本当は、この店の生菓子がどれもおいしいのだけど、賞味期限が当日中だからそれは持って来れなくて残念」と言っていたのをずっと覚えていました。ブンガワン・ソロの生菓子は、ちまきやおだんご、おはぎのような、和菓子とも似た、でもココナッツや黒糖、パンダンリーフ風味のついた南国風の、とても上品でおいしいお菓子でした。
その後は、フードコートでおでんのようなシンガポール料理を食べたり、ラッフルズ・ホテルでシンガポール・スリング(明日は泳げることを信じて、ノンアル)を飲んだりして、楽しく午前中をすごしました。

午後は、みんなでチャーター車に乗って、まずはOCBCアリーナに選手登録に行きました。
ここは今開催されている世界水泳の会場であり、またマスターズの競泳競技の会場でもある国立競技場にあるプールの場所です。みんなでチャーター車で移動しながら、車中写真を撮ったり、日本ではちょうど津軽横断が成功して、全員で大喜びしたり、横断経験者の話を聞いたり、楽しい時間はあっという間、競技場に到着しました。
広い、広い敷地に、大きな、大きな建物群、空にはバルーンも浮いていて、すごいところに来たなぁと思いました。

みんなで、いろんなスポット全部で写真を撮りながら、楽しく移動して、ADカードを受け取って、受付を完了です。
参加賞のセームや、ショッピングバック、ショップのクーポンなどももらい、受付前にはお菓子やドリンクもおかれている素敵なホスピタリティ。もう、うきうきでした。
会場近くに設置されていた協賛企業のヤクルトのブースでくじを引いてクーラーバックをもらったり、大きなヤクルトをもらったり、TYRのブースでバッチをもらったり、ショップに寄って記念Tシャツなどを見たりして、お祭りに遊びに来ているみたいでした。

それから、前日説明会の会場であり、翌日の競技会場であるセントーサ島のビーチへ移動しました。
少し早くついたので、会場横のビーチを歩きました。
ビーチでは、海水浴の人たちが泳いでいたり、個人で試泳をしている人たちもいて、水質不良で試泳ができないというほど汚くは見えないけどなぁ、普段練習している横浜方面の海と比べても、それほど悪い気もしないなぁという感じでした。これなら、午前中、ここに泳ぎにこればよかったなぁと思うぐらいで、翌日への心配は払拭されました。
「水質不良で試泳中止」と聞くと、「そんなところで泳いで大丈夫なの?!」と私も少し思っていましたが、実際に見てみると、「全然大丈夫」と思うことができて、少し安心しました。
でも、すぐ横の方はコンビナートみたいな感じだし、大型船がいっぱい停泊していて、OWS会場らしきコースロープの横もばんばん大型船が走っているし、「こんなOWS会場、見たことない」とも思いましたが、とても大きなコースブイを見て、「これなら、コースブイが見えないということはなさそうだ」という安心感も生まれました。
数百人が詰めかけた説明会は、あまり進行がスムーズでもなく、画面もなく、また声も聞こえにくかったのですが、直前に変更になったコースの説明は見えたし、聞こえたので、最低限のことは分かったからいいか、というのと、一緒に行った他のメンバーとその後作戦会議を兼ねた食事会に行った際に、同じ感想だったということもあり、いよいよ明日だ、と気持ちがはやり始めました。
その他、開催できるかどうかは、まだ分からない、どの段階でできるか、中止になるか分からないけれども分かり次第連絡する、と言っていた、ということも聞きました。
食事会は、みんなで宿泊しているホテルの近くのショッピングセンターの一角の海南チキンライス屋さんで、すごくスープがおいしい海南チキンライスを食べました。

日本にいるときから、海南チキンライスは大好物なのですが、結構違う食べ物でした。
日本だと、やわらかい鶏ハムをメインに、薄い味付きごはんをソースと一緒に食べるイメージだったのですが、現地のものは、スープとごはんにものすごく濃いチキン風味がついていて、鶏は骨付き鶏をバンバンぶった切ったもの?もしくはスープのだしガラ?という感じでしたが、試合前夜の食事としては、炭水化物と水分・塩分を中心にたっぷりと補給できていい食事だったと思います。
近くのパン屋さんで甘そうなパンを買ってホテルの部屋に帰りました。
長距離種目の試合に出る日は、私は、数日前から前夜にかけては、炭水化物に偏らせたハイカロリーぎみの食事を取り、朝は甘いパンをカフェオレと食べるというのがルーティンなので、同じようにできて良かったです。
翌朝、朝起きてすぐアプリを見ると、タイトルに”Open Water Women’s Race confirmed”とのこと。さあ、行くぞ、と思いながらパンを食べました。
ちなみに、パンは2種類、黒糖フレークがいっぱい乗ったパンだと思っていたものと、レーズン食パンを買っておいたのですが、黒糖フレークが乗ったパンと思っていたものは、あらびっくり、なんか、かつおぶしのような、肉のような、しょっぱいトッピングのお食事パンでした。それは主人がおいしくいただいて、私はレーズンパンをおいしく、いつもより多めに食べました。
さあ、ホテルのロビーでグループメンバーと待ち合わせて、タクシーに乗り込みます。コーチたちは、先に行って、横のビーチで泳いでから会場入りしているはずです。さすがです。

会場につくと、入口前で、藤森コーチが手を振って迎えてくれました。とても安心できました。
さあ、会場入りです。
実は今回、富士マスターズの同じ組で知り合った友達が同年代でエントリーしていて、事前に連絡もくれて、前日説明会でも会い、当日もずっと一緒にいてくれました。
私より少し年上で、少し?結構泳ぐのが早くて、ずっと豊富なOWS経験のある姉貴分なお友達です。久々のマスターズ友達との近況報告など、また前の年代が泳いでいるところを控え場所から見ながらあれこれ話しているうちに、私たちにも召集がかかりました。
ええ、もう?という感じではありました。
直前に楽しく過ごしすぎて、クラゲ除けは塗り忘れたのですが、今回の海は、ノー・クラゲ、ノー・チンクイ、ノー・海藻&魚な、ある意味クリーンな海だったので大丈夫でした。
私は、強気なようでいて弱気、どんくさい子なので、自由席というといつも座る席にも困るのですが、その友達が召集所の集合では、最前列で「隣においでよ」と呼んでくれて、説明者の説明も、要点を横で教えてくれたので、とても落ちついてスタートを迎えることができました。
呼び出しがあり、全員で控室を出てスタートに向かう道すがらでは、青いTシャツを着たグループメンバーが、みんなで手を振って送り出してくれました。
力いっぱい手を振り返して、スタート地点に行きました。
スタート場所は各自で選べたので、姉御とオーシャン・ナビ仲間の間のスペースに入りました。できるだけ、ついていけますように!
スタートは、桟橋に片手をつかまってのフローティング?スタートです。
ここで、桟橋を蹴って勢いよくスタートできるといいとは思うのですが、実際は、手を離した瞬間に、「じゃぼん」と視界0の深い水中に一旦沈んでから、仕切り直しに泳ぎ出す、という感じでした。
その時点で、ものすごい水飛沫を立ててスタートを切った先頭集団とはもう離れていたので、気持ちを切り替えてマイペースで泳ぎ始めます。ブイは見えているし、ひとりでも大丈夫。
今回は、1kmのコースを3周でした。
ブイはとても大きくて、また、1周目のときはあまり波もなくて、ふとまわりをみると全部のブイが視界に入るという感じでした。そして、遠くからでも、次のブイまでもが見えているので、「見えているんだけど、なかなか近づいてこない」という感じで泳いでいました。
また、2周目に入るときに、「もう2周目」というすこし気が抜けていたせいもあって、2周目のゲートをくぐった時から見えていた、まっすぐに向かったブイは、実は第1ブイではなく、第2ブイだったというあまりにも初歩的なミスを第2ブイ付近でライフガードに止められて教えられ、第1ブイに泳いで戻るところで、少し緊張感が途切れてしまった点は、反省点です。
2周目、3周目といくごとにこの日は波が強くなってきて、最後のFinishゲートに向かう時には、ずっと第4ブイ以降にゲートは見えているし、それほどぎりぎりコースを泳いでいたつもりでもなかったのですが、ずいぶんと岸の方まで流されてしまい、泳いでも、泳いでもなかなかゲートに泳ぎつけず、しかも、あれ、と思ったほど岸壁近くまで寄っていて、海では、もっとパワフルな推進力をつけなきゃと思いました。
それでも、へとへとになりながらなんとかゴール。ここでしかできない、タッチ板を叩いてのゴール。
タッチ板はちょっと高い位置にあるので、伸び上がって、水中を蹴ってジャンプしてタッチしたところ、「え、こんなところで?!」という感じで全身攣りました。
息も絶え絶えで何とか桟橋まで泳ぎついて、でも桟橋に登れないという感じでいたところ、役員さんと、前の方にいた泳者が手を貸してくれて桟橋に上りました。こういう助け合いが、本当に心が温まります。
上がった後は、冷たいタオルを首と肩にかけてもらいながら、ペットボトル2本分も冷たい水をもらい、充分回復してから、やっと応援チームのことを思い出しました。
応援チームの方を見ると、みんな手が振ってくれていました。きっと、ずっと手を振ってくれていたんですね。本当にありがとう。
後で聞いたところによると、最後、私がゴール前の岸壁近くでもがいていたときからみんな、はらはら見てくれていたとのこと。ご心配をおかけしました。ありがとう。
女子全員がめでたく完泳し、みんなで帰りにフードコートでランチして帰りました。
なにもかもがおいしいこと!シンガポールのフードコートはいくつか行きましたが、どこもいろんな国の料理があって楽しく、おいしく食べましたが、特にこのセントーサ島入口のフードコートが、種類が多く、どの店もおいしくて良かったです。

翌日は男子の試合です。
前日は曇り空だったのですが、この日はものすごいカンカン照りのいい天気でした。
そして、前日はそれほど大型船の行き来はなかったのですが、この日は結構コース横を大型船が行き来して、その度にイレギュラーな大波が来る、という泳ぎにくそうなコンディションでした。
それでも、普段の練習を積んでいる成果で全員が完泳し、全員で上機嫌で帰途につきました。

帰り道、横で世界水泳のハイダイビング競技の決勝が行われており、飛び込むところを生で見ました。
ハイダイビング選手の、飛び込む前に、飛び込み台の先端で爪先立ちになった姿は、全身の整った筋肉が浮き出し、張り詰め、覚悟を決めた表情とともに、この世のものとは思われないほどの、神がかった美しさでした。
その後は、前日も行ったセントーサ島入口のフードコートで最高においしいラクサを食べ、マーライオン前で記念撮影もしてホテルに帰りました。

この日は、ホテルに帰ってから、藤森コーチにインディバをしてもらいました。
なんと、この旅行中はインディバ受け放題、というスペシャルサービスがあったのです!インディバで充分にほぐしてもらい、旅行中の間にリカバーすることができました。
その日の晩は、ものすごくぐっすりと良く眠れました。
翌日は櫻井コーチが手配してくださっていた世界水泳の予選を見に行きました。
日本人選手たちの雄姿も見ることができ、櫻井コーチに挨拶にきた今福選手と一緒に記念撮影もさせてもらい、ショップで買い物もして、空港に向かいました。

日本に到着すると、次々とグループメンバーからのお礼の言葉と共に到着報告が届き、いい人たちといっしょに行けてよかったなぁと思いました。
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【レポート②】増田珠理さんのレポート
「希少種おばちゃんたちの国際レース」
ノリと流れでシンガポールの世界マスターズにエントリーし、完泳と観光目的というお気楽なテンションで現地に赴いた私でしたが、レースに臨むコーチを含むオーシャンナビのメンバー達といると自然とちょっとがんばらなきゃという気持ちが沸いてきました。
本番前、水質が泳げる基準値を行ったり来たりしているということでレース開催もギリギリまで心配される状況で迎えた本番当日。
ひとまず開催決定の一報に安堵し、自分のエイジグループに分かれ、時間が迫ってきてスタンバイしていると世界中から集まったおばちゃんスイマーたちと緊張を紛らわすべくおしゃべりを始めました。

隣のマダムはオーストラリアのダーウィンから来たとのこと。
マスターズは20年前に出たことあるけどその時は皆、競争心むき出しで怖かったけど、今回は家族に自分の趣味を理解してもらって今日のレースを楽しむことを目的にしているの、今日は開催されてよかったねえ、楽しもうねえ、というリラックスした雰囲気になり私も緊張がほぐれました。

さあこれからレース会場に行きます、というところで主催者側の挨拶でこんなこと言われました。
「皆さんはオープンウォータースイマーという希少種。その勇気とレースに向けてのたゆまぬ努力に最大限の敬意を表します」と言われました。
あれま~ オーシャンナビは海峡横断やら湘南10㎞やら、さらに次元の違う希少動物がたくさんいるよな~~と思ったわけです。
オーシャンナビの皆さまは国際ステージに出たら最強だなあと改めて思いました。

そんな最強チームのはしくれとして初めて臨んだ国際レースでしたが、他の国の希少種おばちゃんたちとのレースを全身で楽しんでいましたが、途中からちょっとだけ闘争心も沸きました。
1㎞x3周のレース、潮の流れが思ったよりきつくかなり流されていると気づいたのは3周目で目標よりは長くかかってしまいました。いい教訓となりました。
今回はインディバ担当オリンピアンが帯同という格別なコンディション、自らレースに出場しながらもツアーの全体をサポートしてくださった櫻井コーチのおかげで、大変思い出深いレース・旅となりました。
一緒にレースに出ることが出来た皆さまとの貴重な時間は一生の宝物となりました。
本当にありがとうございました。

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【レポート③】藤井亜紀さんのレポート
OWS競技の行われるセントーサ島は、世界第二の貿易港を擁した都市国家シンガポールの南側にある。
USS始め多くの観光施設が開発されていて、本島とはMRTやロープウェイ等の近代的な交通機関で結ばれている。
周辺は多くの船舶が行き交い、ロープウェイからは、本島側沿岸に設置されているガントリークレーンが、キリンが首を垂れて海を覗き込むような姿で林立している様子を、遥か彼方まで見渡せる。
本島は、高速道路やMRTが発達し、小さな面積のなかにさまざまなインフラがぎっしり、道路や街並みは清潔に整備されて、歩道は広く、ヤシの木等熱帯性の街路樹が、赤道直下の陽光を浴びながら風にそよいでいる。

英領であった時代の建築様式が所々にみられて、真っ白い漆喰の壁の建物とガラス張りの近代的な建物とが共存している。
長い歴史のなかで、さまざまな外国人を受け入れてきたので、マルチナショナルな雰囲気を持っている。市の中心部には、日系の百貨店も幾つか入っている。
MRTの駅の名前は、英語かマレー語由来だ。マレー語はインドネシア語とほぼおなじなので、手を挟まないように注意する掲示が読める。
そんなシンガポールのセントーサ島で開催された世界マスターズOWSは、試合会場の海水温が高く、水質も芳しくなく、大会委員会の監視では、開催基準値以上と以下を行ったり来たり。
前日の公式練習はキャンセルされ、説明会は、そのエクスキューズに終始した。

全員集められたブリーフィングの緊張した雰囲気の中、女子のレースは翌日の男子のあとに振替開催されるのか、女子のレースのあとに試泳許可の可能性はないか、何人かが質問の手を挙げた。
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本番も開催が心配され、朝イチのメールを見るまでは誰も確信はなかったが、幸運にも当日は基準以下に下がった。
それで4ウェーブ合計207 人が、順次スタートできることになった。
スタートラインに立つと、確かに水はあまりキレイな感じがしない、水中の視界はほとんどないだろう苔色の海水のなかにドボンと降りると、海水はまったりぬるい気がした。
威勢よくスタートし、横に広がったあとは、選手たちの列がバラけて点在した。

途中、流れの強い部分があったり、コースロープの外側を客船が通過するたびに波がコース内に入ってくる、ワンストロークで左に数メートルワープして、チェックポイントの突堤にぶつかりそうになる。
私はやっぱり練習の質も量も不足を感じずにいられず、体幹も弱っていて、横波が入ると丸太のように回りそうな身体を、何とかコントロールしながらの3kmだった。
周回の最終ブイを右に回ったあと、1km周回のチェックポイントのアーチが、泳いでも泳いでもなかなか近づいてくれない、、、覚悟していたものの、思っていた以上に辛抱また辛抱の時間になった。
この大会では、1000mと2000mを時間内に通過しなければ足切りになる。
いまの自分はスピード感覚がまるであてにならないから、コース取りを出来るだけ正確に、ひとかきひとかき、次のブイを目指して前に進むのみだった。
コースが実際は3kmより若干長くなったそうだが、20年の経験が何とか支えてくれたのか、結果的には二年前の福岡大会より少し早いタイムでフィニッシュした。
順位も少しだけ上がった。
海から上がってフラフラしながら椅子に腰掛させてもらい、ボランティアが私の目を覗き込みながら頭から冷水をかけてくれたのが、なんともひんやり気持ちがよかった。
観覧席から、コバルトブルーのナビTの櫻井コーチや男子選手の皆さんが、大きく手を振ってくれているのがみえて、ああ、完泳できたんだ、と、二年間それを目指していたことをようやく思い出した。

多少の接触はあったけれど、世界大会までやってくるスイマーのマナーは、前回同様、スポーツマンらしかった。
最後の控え室には、ミネラルウォーターと日本のメーカーの菓子パンが山盛に置いてあった。
長身の白人スイマーが、是非ともまた次回会いましょう、とウィンク。
スタートしたうち約13%の、27人がタイムオーバーで途中棄権となり、その中には第二ラップまで一緒に泳いでいた、私をジャカルタ出張のたびに、いつも練習会に誘ってくれるインドネシア人の友だちもいて、心が晴れなかったが、いつかまた海で一緒に泳ぐことを楽しみに、お互いに練習を続けて行こう、ジャカルタに来たら知らせるよと言った。
翌日の男子のレースも無事に開催され、オーシャンナビからRepresenting Japan として出場した男女全員がフィニッシュした。
海外の往年のスイマーたちがenjoy and struggleとばかりに次々にフィニッシュする背中は見ごたえがあった。
実況が男子の最年長スイマーのフィニッシュを讃えて彼をThe youngest swimmerと紹介したとき、私もThe strongest one とは、必ずしも1位の選手のことを指すのではないと思えた。
何をもって「強い」というのか、その定義がリセットされたような感じがした。
彼らは、私よりももっとチャレンジングな体験の後にセントーサにやって来たに違いない。
新代田で待っているよ、と言葉をかけてくれたナビの選手のみなさん、櫻井コーチ、3週間前の突き指がまだ痛んで指を折れないところ、丁寧にケアしてくれた藤森(太)コーチ、コーディネーターの方、皆さんにもう一度お礼申し上げたい。
今回の世界マスターズで3kmを完泳できたことで、日本に少し近づけた気がしている。

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【おまけ】櫻井コーチの珍(?)レースレポート
世界マスターズ2025シンガポール大会のOWS(オープンウォータースイミング)競技に出場してきました!
水質不良のため、前日に予定されていた試泳・練習会が中止となり、一時は大会自体の開催が危ぶまれましたが、なんとか無事に開催されました。
レースは1km×3周回の3km。
当日、レース会場に到着し、「久しぶりの海外レース、楽しみだな~」とウキウキ気分で控え室で着替えていたところ…

屈強な外国人選手2人が近づいてきて、いきなり「one six two?(162)」と声をかけてきました。
自分のゼッケンが162番だったので、「Yes, yes!」と笑顔で答えたところ、肩幅が僕の1.5倍はありそうな黒人選手が、ドスの利いた声で「I’m marking you」と一言。
最初は意味がわからず「ん??」となったのですが、「あ、俺、マークされてるってこと?」と分かり、焦って「OK. Me too!」と訳のわからない返しをしてしまいました😅
よく見れば、肩幅だけでなく胸厚も僕の1.5倍くらいある??
しかももう1人は身長2mくらいの白人。
2人は笑顔もなくそのまま去っていったのですが、こっちは完全にビビりモード…。
そしてレース開始直前。スタートのポジションを決めるため桟橋に立つと、例の“岩のような”黒人選手が隣にやってきた。
「おーっと…、この岩男、隣でスタートするつもりか……」
腕の太さは僕の2倍以上。スタート時にこの腕で殴られたら、ひとたまりもない…。

じつは前日の女子レースで、メダル有力候補の日本人選手が外国人との接触で殴られ、気を失って病院に運ばれたという出来事があったばかり。
その話が頭をよぎり、「この黒人との接触は絶対に避けないと!」と思い、スタートダッシュは譲って彼の後ろから出る作戦に変更。
この判断が功を奏し、ほとんど接触なく第1ブイを突破、1周目は4位で通過しました。
「よし、ここから前を捉えていくぞ!」と虎視眈々と狙っていたところで、予想外のアクシデントが…。
レース会場はアジア最大級の港のすぐそばで、周辺には多くの大型タンカーが往来します。
その影響で時折大きな波が打ち寄せてくるのですが、2周目を泳いでいるときに、その日最大級の波が襲来。
あおられた拍子に、桟橋に頭を強打してしまいました。

一瞬意識が飛び、「何が起きた!?」という状態に。なんとか泳ぎ始めたものの、逆方向へ進んでしまい、気づいて修正した頃には頭がボーッとして腕にも力が入らず…。
そのままズルズルと順位を落とし、9位でフィニッシュとなりました。
ギリギリ入賞(10位まで)はしましたが、前回の福岡大会の3位から大きく順位を落とすことに。
最後はあの黒人選手に「まったくマークされるような相手じゃなくて、申し訳ない…」と思いながら泳いでいました。
泳ぎ終えた直後は少しショックでしたが、時間が経って振り返ってみると、国内ではなかなか経験できない、“面白い”レースだったなと思います。
次に向けて、また頑張ります!

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