「 Let’s Talk ! 」File 05 【アスリート編 後編】石浦智美さん

オーシャンナビの会員さんに直撃インタビューするLet’s Talk。第5回目はスペシャルゲスト、新代田でも時々練習されているパラリンピアンの石浦智美さんにご登場いただきます。《後編》では視覚障害を持って泳ぐ、ということについて伺いました。

File 05【アスリート編 後編】石浦智美さん
1988年生まれ、新潟県出身。先天性の緑内障による視覚障害を持つ。東京大会でパラリンピック初出場を果たし、S11という全盲クラスで、個人2種目と、混合リレーに出場。50m自由型で7位入賞、100m自由型でも8位入賞、そして混合400mリレーでは5位入賞。


一番必要なのは探究心。

テクニックを磨くことで進化し続けられる。

――レッツスイム新代田に来るようになったきっかけは?

2010年頃から通い始めたんですが、その当時、パラ水泳界の練習環境は全然よくなくて、以前からの練習仲間で、レッツで練習していた池田浩昭さんに、「家からも近いし参加してみれば?」と誘っていただいたのがきっかけです。

ーー人が多くて泳ぎづらかったのでは?

それは全然なかったです。普段は一人で泳いでいるので、むしろ、健常者と一緒に泳げる機会は貴重ですし、いい刺激になるんです。障害を持っていると通常のプールの利用を断られることが多いのが現状なんです。何かあっても責任持てない、みたいな理由で。その点守谷さんは、障害を持った人の津軽海峡横断泳をサポートした経験もあって理解があったので受け入れていただいて、すごくありがたかったです。

――パラリンピック前はしばらくお見かけしませんでしたが、他に練習環境を確立できていたんですか?

ナショナルトレーニングセンターを練習拠点にしていました。コロナ禍の感染対策ということで、毎日PCR検査を受けなければならなかったのと、人との接触をなるべく減らすようにという指示もあったので大勢の人が集まる場所に行きづらかったんです。

――全盲クラスで競技されていますが、視力はどの程度なのですか?

今は明るい、暗いがわかる程度です。緑内障という進行性の病気なのでどんどん症状は悪化して視力が悪くなっていきます。新代田に行きはじめた頃はまだ下のラインもちょっと見えていたんですけど。

――今回のパラリンピックでは、NHKの放送で選手の障害を詳しく説明していて、見ている側としては理解が深まってよかったと思うんですが、石浦さんとしてはそういう紹介のされ方をどう感じましたか?

遠慮して触れないというのではなく、普通にプロフィールとして紹介していてよかったと思います。普段、近寄りづらいとか、話しかけにくいと思っている方がほとんどだと思うんです。でもこういう風に紹介していただくことで、以前より自然な感じで接してもらいやすくなるのかなって思いますね。

障害のあるなしに関わらず、仕事などで苦手な分野があったりするのはみんな同じだと思うんですよ。だから、障害がある人を特別視して距離をとるのではなく、できないこと、苦手なことをみんながお互い自然に補えるような社会になっていけばいいなと思います。

――改めて、視覚障害があって泳ぐということについて伺いたいのですが、どんなご苦労がありますか?

先ほど言ったように、練習環境が確保しづらいということと、競技として泳ぐためにはタッパーという、ゴールとターンの位置を知らせてくれる人をつけるのがベストで、パラリンピックでは私のような全盲クラスの競技者はそれが義務付けられています。そういったサポートしていただく人たちを探すのが大変なんです。泳ぐこと自体は視覚障害があっても練習すれば誰でもできるんですけど、そういったこともあってなかなか競技を始めづらい部分があるんだと思います。

――練習でもタッパーが必要なんですか?

私は普段もほとんどタッパーをつけて練習しています。というのも、短距離でスピードが出るのでストローク数を数えるだけだとなかなか難しいんです。有償ボランティアという形でお願いしています。

――そういう意味では資金面も大変なんですね。

そうですね。でもこういうことは有償でやっていただくのがベストだと思っています。お互いの関係性ということでも、責任の所在という意味でも。時には無償でやってくださる方もいて、その時はありがたくお願いしていますが、基本的にはひとつの目標を持って限られた時間を共有するので、有償の方がお互い気持ちよくできるんじゃないかなと思ってます。

――パラリンピックでも話題になりましたが、視力に頼らずにまっすぐ泳ぐことって大変ですよね。石浦さんの場合、どんな風にしているんですか?

下の線が見えないので、コースロープに触れながら泳ぐのがベストなんですけど、短距離の場合だと常にロープを探りながら泳ぐとタイムロスが大きいので、色々試行錯誤しています。私の場合、ロープに触らないまま行けるところまで泳いで、ぶつかった時点からロープに沿って泳いでいたんですが、今回パラで同じ決勝に進んだトップ選手たちを見ると、飛び込んだらまずロープに触りに行って、そこから真っ直ぐ泳ぐ人が多かったように思います。私の方法だとたとえロープにぶつからずに最後まで泳ぎ切れたとしても、コース内で右へ左へというブレが出てきてしまう。そうなると数センチのロスになっちゃうんですね。どのタイミングでコースロープを頼るか、そして触れるか触れないかぐらいの距離感をいかにして保ってトップスピードで泳ぎ続けられるかは、これからも試行錯誤を続けていく必要があるなと思ってます。

私はドルフィンが得意なので、スタートして15mは潜ってドルフィンで泳ぐんです。他の選手はもっと早い段階で浮き上がってくるんですが、潜った方が省エネで効率がいいので。この戦略にたどり着くまでにもトライ&エラーを本当にたくさん重ねてきました。スタート台に立った時の足のポジションとか姿勢とか。15mの位置はドルフィンの回数を数えて測っています。

――私たちの場合だと、コーチの手本などを見てフォームを学んだり修正したりするんですが、石浦さんの場合はどんな風に泳ぎを検証するんですか?

頭のポジションや肩の位置、そして水に触れているのが身体のどのあたりかを意識しています。自分で自分の泳ぎを見ることができないので、コーチやタッパーに泳ぎの状態を教えてもらって、自分の感覚とすり合わせる。顎を引いてみたりとか、頭の後ろの首の骨や、頭のてっぺんに水があたるような感覚を探ったりしながら修正していきます。その時の水の感覚をしっかり体に覚えさせながらやっています。

あとは、コースロープに触る右手の動作。ロープや壁を手で探るくせが昔からついてしまっているので、手首がそりかえってしまったり、無駄なひらひら動作が入ってしまいがちなんですね。それを、意識的に指を閉じたりして修正します。大きく泳げていないなと感じる時は肩甲骨から動かすイメージで泳ぐとか、キックだったらなるべく足を内側に向けて親指同士が触れるか触れないかぐらいのところで打つとか、そういう感じです。

――水泳が上達するために大事なことって何だと思いますか?

いろいろ試してみる。それが一番だと思います。指導者の教え方もいろいろですし、情報も最近ではたくさん入る。でもオリンピック選手と同じことをやれば速くなるかというと、そうでもない。障害ある無し関わらず、その人に合った上達法がきっとあるはずなので、知った情報は実際に試しながら自分で納得できるものを見つけるのがいいと思います。

一番必要なのは探究心。残された機能で泳ぐパラの選手は特にそうです。人それぞれ障害が違うので、みんな独自の方法をみつけるため、研究を重ねながら速くなっていく。正解がない世界です。体力勝負というより、テクニックをどう磨くかなので、その分長く競技生活をやっていける、という利点もありますね。

そういう意味では、マスターズとも共通するのかなって思います。年齢を重ねて体力は落ちてもテクニックを磨いていくことで進化していける。その人に合ったやり方を見つけて、それがハマったらまだまだ上達できる。いくつになっても探究心を持ってやっていけば楽しめるのが水泳だと思います。

――石浦さんにとって水泳とは?

障害を忘れられる世界。日常生活は大変なんですけど、水泳をやるうえでは、泳ぐのは自分自身。水泳はいろんな人と出会うきっかけにもなりましたし、競技を通じて人間力があがるとか、目標を持つことでポジティブになれるとか、プラスになっていることがたくさんあります。

――今後の目標を教えてください。

東京大会は悔しさも残った大会だったので、パリを目指すために、来年のアジア大会と世界選手権を直近の目標としています。通常は4年サイクルですけど、今回は3年で、選考会までは2年半。そこまでにどういう成績をとれるかが勝負ですね。

取材日:2021年9月

取材・文:東海林美佳

ライター。一般誌、企業誌、スポーツ専門メディアなどに寄稿。石浦さんのお話には学びがたくさん。肩の柔軟性がないから自分はダメだ~と思っていた私ですが、そんな自分にも進化できる道はあるはず。そう思って探求を続けようと思いました。

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